本稿の目的は,主観的幸福感(生活への満足感,肯定的感情,否定的感情)のうち,肯定的感情と否定的感情を若年期,中年前期,中年期,中年後期という4つの年代に分け,性別によって差異があるかどうかを調べ,つぎに両感情を規定する要因を基本属性,主観的健康感,さらに文脈的変数を加えて検討することである。調査対象者は153カップル,それぞれの平均年齢は,若年期31.9歳,中年前期38.1歳,中年期49.3歳,中年後期57.2歳である。結果は以下のとおりであった。(1)中年前期と中年期では夫の肯定的感情は他の年代よりも低く,とくに肯定的感情における性差は中年期の夫と妻で大きかった。一方,どの年代においても妻の否定的感情は夫よりも高く,中年期と中年後期の妻にジェンダー効果が示唆された。(2)若年期にのみ主観的健康感は両感情に対して強い規定力を示し,健康感の他に若年期では子ども数が少ないことが肯定的感情を高め,中年期では妻であることが否定的感情を高めていた。(3)仕事ストレス項目は中年前期と中年期の肯定的感情と中年期の否定的感情に対して規定力を示した。一方,関係ストレス項目は中年前期の両感情と中年期の肯定的感情,若年期の否定的感情に強い規定力を示した。中年期は仕事や関係ストレス項目を考慮に入れても両感情の説明力は十分ではなく,パーソナリティ変数を含めて検討する必要があるだろう。