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本稿は学術情報流通の重要な媒体である学術雑誌の歴史と，その質担保の重要な仕組みである査読制度の発展について述べたものである。学術雑誌，より一般には科学を歴史的に検討することの意義を科学史研究の観点から説明したうえで，現時点における比較的最近の研究に基づいて学術雑誌の歴史と査読制度の発展を概観し，最後に学術雑誌にかかわる現在の課題のいくつかと，それらの問題を乗り越える可能性について論じた。とくに最近出版されたAileen Fyfeらによるロイヤル・ソサイエティにおける学術出版についての大部の研究書の紹介に大きな重点を置いた。, This article discusses the history of scientific journals and the development of their review systems. It emphasizes the importance of historical perspective in studying the subjects like “science” or “scientific journal” and reviews the history of scientific journals and the development of the review systems using relatively recent studies on the subjects. It ends by discussing some of the current challenges. In particular, it presents some of the findings in the recently published book on the Royal Society’s scientific publishing by Aileen Fyfe and others., 特集：学術情報流通のあり方, Special feature: Scholarly communication and publishing

研究ノート, Notes

日本の学会はインターネット経由で取得した文献を利用することについて，学会員や学会誌の投稿者に対しどのような方針を出しているのか，またその内容は研究領域によってどのような違いがあるのか.本稿は，この二つの課題に関する調査結果の報告である．方法は，サイト「学会名鑑」に掲載された2030の学会の中 から，一つの学問分野に属しかつ全国規模の学会であるものという条件で絞り込んだ1233学会に対し，「執筆要項」の有無と内容，「文献の引用」に関する記述の有無と内容を当該学会サイトで調べた．その結果，調査対象の中で「執筆要項」69％，「文献の引用」66％，「インターネット資料の引用事例」23％，「インターネット資料引用の指針」8％が公開されているという結果が得られた．部門別に見ると，どの項目も人文・社会科学分野で少なく，生命科学，理学・工学分野で多かった．インターネット資料の引用自体に関する考え方を公表している学会は6％あった．内容は，公的機関以外のホームページから引用することは原則認めない，印刷物で同じ情報が得られる場合は印刷物が優先される，インターネット資料は内容の永続性に問題がある，プリントアウトしたものを保存しいつでも提出できるようにすべきだ，といった意見が主なものであった．

国家としての中国は複雑な歴史的背景をもっている。建築における近代化という問題を考えるとき、中華民国と満州国との関係、日本や欧米との関係が複雑に絡み合い、その実相を把握することは容易ではない。中華民国建築と満州建築に関連する先行研究において、ある地方或いは人物や機関に着目しての史的研究は多く報告されている。しかし、マクロの視点からの、両者における建築思潮に関する研究はいまだ不十分のため、現代の中国を踏まえて近代化の萌芽を振り返ると、中華民国の建築史を研究する際に、東北の満州地方の建築開発を無視したり、逆に、満州地方の近代建築に注目する際に、中国の建築家が推進した建築活動と両者に視点を置くことができないことがしばしば発生している。そのため、本研究では、中国建築の近代化に影響を与えた一部となっている満州の建築を視野に入れつつ、最初の中国建築学会が設立された1930 年から日中戦争が起こる1937 年まで、政治的、社会的背景を踏まえ、同じの時期に活躍した中華民国の建築学界と満州の建築業界を分析し、中国における近代建築の萌芽期に育まれた建築思潮を多角的に考察することを目的としている。日本は1905 年の日露戦争の勝利により中国東北の満州の統治権を獲得した。1920年には、植民地初期の満州において、日本人建築家が主導する建築学術団体としての「満州建築協会」が発足した。1931 年満州国独立宣言により、満州では建設活動の動向にも大きな変化が生じ、南満州付属鉄道地を中心とした枠を突破し、大規模な建設活動を開始した。一方、1928 年北伐戦争の後、社会生活は安定的になり、中国の建築界の成長のための契機をも与えられた。1930 年代初頭、中国人建築家が主導する建築団体は北京、上海に相次いで設立され、設計活動とともに研究活動が展開された。その結果、日中戦争が起こる1937 年まで、双方の活動は、相互交流はないものの、中国における都市の変容と建築文化の発展に大きな影響を及ぼした。これは中国の建築近代化の萌芽期における重要な二軸と考えられる。受けた教育や経歴などの個人的背景の差異が影響を及ぼす様々な思想や意識が行き交う中にあって建築界の全体的傾向を獲得するために、本論では、学術団体という建築家集団と、雑誌という建築メディアを立脚点とする。中国の学術団体と満州建築協会の建築思潮を明らかにすることで、1930 年代中国における建築の近代化に影響を与えた建築思想の全体的構図を解明しようとするものである。そのため本論分においては、以上の建築学術団体によって刊行された『中国営造学社類纂』、『中国建築』、『建築月刊』、『満州建築協会雑誌』の1930 年から日中戦争の起こる1937 年の最終号に掲載された文献を通覧し、そのうち著者の主張が明確な論文、記事、社説などの文献469 篇を対象に選定した。その内容を把握するために、まず、著者の主張や関心事が明確に現れている段落を「キーセンテンス」として抽出した。次に、「キーセンテンス」から事象、状態、コメント等を表現する名詞或いは名詞化動詞等を選定し、中心的な内容を代表する「キーワード」を抽出した。さらに、「キーワード」の意味する対象の語義に基づいてグループ化し、その表す内容により、大項目の［カテゴリー1］を設定する。その後、カテゴリー1 の示す分野領域により、小項目の「カテゴリー2」を設定する。以上のステップにより、文献対象とその主旨を類型化した。カテゴリーごとに属する「キーワード」の指摘頻度を集計して、統計的考察を行った。こうしたキーワードの抽出による類型化の方法を用い、2～5 章で統計的考察を行う。精神的・創造的な事柄が動く時、必ずしも多数決の論理がそこに支配するわけではないが、敢えて個的作家の発言内容ではなく、定量的な統計処理により、激動の歴史に一つの道を見出そうとすることに本研究の特徴がある。本論は全6 章からなる。第1 章で本研究の背景および意義、また研究対象と方法の有効性を述べる。第2 章では、1930 年から1937 年まで、『中国建築』、『中国営造学社類纂』、『建築月刊』に掲載された330 篇の文献を対象とし、建築言説を考察することによって、中国の建築学術組織において、自らの民族様式の起源を探究のため、様式の検討を中心とする建築意匠に関する言説が、建築思潮の主幹となったことを明らかにした。第3 章で前章のキーワードの抽出データを踏まえ、文章や言説の指向性を基にして、抽出したキーワードを欧米と日本に分けた。建築言説を国別に考察することによって、中国の建築学術組織における欧米と日本に関する言説はそれぞれ科学技術の分野と建築文化の分野に焦点を当てていたと明らかになった。欧米の学者の影響は中国の建築学術組織に自国の古代建築の研究に根拠を提供し、日本人の学者が中国の建築学術組織に古代建築の研究方法にフィールドワークなどの新たな考え方を提供したことを明らかにした。第4 章では、1930 年から1937 年まで、『満州建築協会雑誌』に掲載された139 篇の文献を対象とし、建築言説を考察することによって満州建築協会の建築思潮の脈絡が抽出でき、建築を背景とした言説は設計方法論と建築意匠論の2 つの分野に集中し、新興満州国の国家イメージを目指す議論はこの時期の建築思潮の主軸を構成している。また、満州地方を中心とした古建築の考察に基づき、満州建築文化体系の確立に向けた脈絡が形成されたことを明らかにした。第5 章で満州建築協会において、前章のキーワードの抽出データを踏まえ、文章や言説の指向性を基にして、抽出したキーワードを中国、欧米、日本、とその他の国に分けた。建築言説を国別に考察することによって、日本の新しい建築材料と設備及び職人の教育方法、また北京や瀋陽などの中国主要都市の建築史的、都市史的分析、また欧米の都市計画理論と建築様式の考察と、対象が目まぐるしく替わったことを明らかにした。第6 章では明らかにされた各章の成果をもって本論全体の結論を述べる。中国における建築の近代化に大きな影響を与えた建築思潮を考察することにより、中国人建築家集団と満州建築協会の位置づけが明確になった。前者の民国政府が統治する区域においては、建築意匠に関する言説は、中国における建築近代化の主たる駆動力となった。中国人建築家集団の主導による、自らの民族様式の源泉への探求がその背後にある。一方、東北部の植民地、満州において、満州建築協会は主として満州における建築・都市史の研究を積極に展開し、日本と欧米から建造技術と建材、都市計画理論と様々な建築様式を満州へ導入し、中国における建築近代化の過程で多様化を推進する役割を演じたことを明らかにした。

本稿はUnpaywallを利用して日本と世界のオープンアクセス（OA）状況を調査した．日本の調査ではUnpaywallとScopusに収録されている日本の著者による雑誌論文約200万件，世界の調査ではUnpaywallに収録されている雑誌論文約8,000万件を対象とした．結果，日本と世界のOAの割合はそれぞれ41.83%，29.77%であることがわかった．日本の割合の高さの要因は，過去に出版された論文の多くがブロンズであることである．近年の傾向としてゴールドの割合の上昇が観察された．機関リポジトリで公開されている論文の割合は2000年から2010年にかけて増加しているものの，2010年以降は横ばいで約5%である．2010年以降の機関リポジトリのみでOAである論文の割合は約1.5%である．グリーンOAを効率よく推進するためにも，各機関がそれぞれのOAの状況を継続的に把握できるような仕組みが必要である．, This article investigates the state of Open Access (OA) in Japan and the world using a dataset provided by Unpaywall. The analysis covers two million articles for Japan and 80 million articles for the world. We find that the percentages of OA articles in Japan and the world are 41.83% and 29.77%, respectively. A reason for the high percentage in Japan is that many articles published a long time ago belong to the bronze category. As a trend in recent years, the analysis reveals the percentage of articles in the gold category has increased. Regarding the contribution of institutional repositories (IRs) to OA, we observe the percentage of articles available in IRs increased from 2000 to 2010. However, the percentage has been flat, at 5%, since 2010. The percentage of articles that are OA only in IRs is 1.5%. To promote green OA efficiently, it is necessary to enable each institution to grasp its state of OA by e.g., developing a system that continuously monitors levels for each institution., プレプリント版を http://hdl.handle.net/2433/246424 にて公開。

世界中の図書館員を悩ませている学術雑誌の価格問題は、我が国でも1930年代には顕在化しており、既に当時の図書館員が値下げ交渉を行った記録が残っている。時代は変わり電子ジャーナルに姿を変えた現代でも、この問題は存在しており、毎年コンソーシアム交渉という形で価格交渉が行われている。本稿では「毎年の値上げの理由？」というテーマで、大手商業出版社の動向と値上げが続く特異な市場構造を解説する。また、最近のトピックスをいくつか取り上げ、購読料をAPCに振り替えることでオープンアクセスを実現しようとする試みも紹介する。なお本稿は、2011年と2013年に著者が行った報告1）,2）の続編として内容をアップデートしたものである。

事例報告, 1980年代から顕著となったシリアルズ・クライシスの影響を受け, 洋雑誌の受入が激減する一方で, 1990年代から電子ジャーナルが加速度的に普及した. さらに, コンソーシアムによる電子ジャーナルの共同購入態勢の確立により, 主要な学術出版社とのコンソーシアム契約は, ビックディールが基本となり, 電子ジャーナル契約形態の中心となった. 本学でもビックディールやコンソーシアムによる共同購入による契約をいくつか導入してきた. しかし, 本学に必要な学術資料を適切な価格で契約することを方針として, 個別タイトル契約と論文単位での購入を組み合わせた契約モデルの導入も検討を進めた. 本報告では本学における2008年のエルゼビア社, 2012年のNature社, 2016年のWiley社との雑誌契約見直しの取り組み事例を報告する. 「1. はじめに」 1980年代から顕著となったシリアルズ・クライシスの影響を受け, 洋雑誌の受入が激減する一方で, 1990年代から電子ジャーナル(以下, EJ)が加速度的に普及した.

無痛分娩は、「薬物による無痛分娩」と、「薬物によらない無痛分娩」に大別され、日本では、1950年代前半にこの2種類の実施が本格的に始まった。1954年から1957年にかけて、日本赤十字本部産院院長の久慈直太郎、慶応義塾大学産婦人科教室主任教授の安藤畫一を中心として、「薬物によらない」方法の一つである精神予防性無痛分娩法の「実用性」・「科学性」・「独創性」について産婦人科学術雑誌上にて議論が展開された。この中で、久慈直太郎は、日本の医療法下で助産師により実践される正常分娩介助における「精神予防性無痛分娩法の実用性」を主張し、また安藤畫一は「和痛分娩」の考え方を提唱し、ともに精神予防性無痛分娩法と「薬物による」方法を併用する使用法を模索した。(著者抄録)

学術雑誌の編集者は、投稿論文を信頼ある内容として公表、伝達するために、投稿原稿を査読や編集委員会を通して適切に評価し、更に読者が読みやすいフォームに調整した後に雑誌に掲載することにより学術発表活動を支援している。本稿では、医学雑誌編集者の国際的な団体である医学雑誌編集者国際委員会（ICMJE）や世界医学雑誌編集者協会（WAME）から公表されている勧告・声明類に基づき、医学雑誌編集の現場で生じている課題や発表倫理をめぐる取り組みについて図書館との関わりのある内容を紹介する。

This study examines developments in dissemination systems of scholarly information and problems with them in Japan. University bulletins have long been sources of scholarly information dissemination in the era of print. To progress as institutional repositories, university bulletins will be actively open to the public. Thus it will become far easier than ever before for people to search and obtain articles from such bulletins. However, some problems have appeared; scholarly information other than university bulletins have not been collected as assiduously as hoped, and the contents of institutional repositories have not always been accessible through normal Web search engines. There are still many problems to be solved in order to establish rich sources of material and to arrange easy access to them for the public.

聖路加国際病院医学図書館では、2004年以降、雑誌契約形態を冊子体から電子ジャーナルへと移行している。出版社側の電子ジャーナル商品への移行、毎年10％近く上昇する外国雑誌価格、契約タイトル数の確保、病院内インフラの整備、そして利用者からの要望。好むと好まざるとに関わらず、病院図書館において雑誌は電子ジャーナルでの提供へ移行していく。病院図書館における学術雑誌提供の行方を、聖路加国際病院医学図書館の事例を挙げて述べる。

学術雑誌の電子化は、パソコンとインターネットの普及という社会的影響を受けている。アナログからデジタルへの移行という観点からみると、電子ジャーナルは、すべてのアナログ機能を引き継げてはいない。そのような理由から、学術雑誌はプリント版と電子版が併存する形となっている。プリント版の機能が引き継げていない点はデメリットだが、それ以上に電子版のメリットは大きく、電子ジャーナルは増えている。今後も電子化は進むであろうし、その影響を受けて、図書館のサービスや体制も変わってくるだろう。だからといって、図書館や図書館員が不要になることはなく、果たすべき役割は変わらずに残っているであろう。

電子ジャーナルの登場で、二次情報データベースからのリンクを通じて論文に直接アクセスする傾向が加速した。またオープンアクセス誌の登場は冊子体を持たない電子ジャーナルだけで提供するスタイルを定着させつつある。論文単位での評価システムも登場することで、雑誌へのアクセスから論文へのアクセスへの傾向が強まっている。しかし、論文品質の維持や評価のためには査読が不可欠で、それは主題別の雑誌という枠を必要としている。

担当教員:前田 知子, 平成25年度(2013)教養展開科目(キャリアを育てる),授業コード:G15K11101

現代の図書館. 42(1), p.3-30(2004), 学術情報流通システムの変革期における電子ジャーナル化の意義と課題について考え,その延長上に,20世紀後半における学術情報流通のパラダイムを否定する可能性をもつ最近のいくつかの展開について,「オープン・アクセス」と「アーカイブ」という問題について「機関リポジトリ」という話題を中心に検討する。