1. Farming of the Japanese Cattle: Its actual conditions and problems
- Author
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Shigeki Ono
- Subjects
Geography ,Agroforestry ,Agriculture ,business.industry ,business - Abstract
和牛の生産は構造的に零細であるが,その原因は子牛生産と肥育牛生産とでは,共通するものと共通しないものとがある.子牛生産の零細性要因の一つは飼料の経済性にあり,粗飼料生産基盤の零細性と費用要因とが,子牛生産の規模拡大をおさえている.さらに飼料費のうち自給飼料費が大きいので,飼養規模が零細なばあいは,経営の副産物•残滓的飼料あるいは野草の刈取りなどで充足しえて,1頭のもたらす実質的な収益性(所得)はかなり高いが,しかし飼養規模が拡大された経営では,自給飼料の生産が経営の負担となって,実質的な収益性を低下させざるをえない13).他方,子牛の価格はその生産の構造的零細性を反映して,その個体ごとの価格のバラツキと格差を大きいものにしているが,飼養規模の拡大した経営では,上記費用(飼料費)の実質的逓増を,高価な子牛を生産することでカバーしなければならない.しかし高価な子牛の生産という課題は,今日の子牛の商品性形成条件からは,かなり労働集約的管理を要求するので,そのことがまた飼養規模拡大の制約条約になっている.つまり子牛生産では因果関係が常に悪循環的に働いて,その構造的零細性を温存させている.そのいわば悪循環をたち切って,大規模経営を育成することはきわめて困難である.現実的な構想としては,農業の構造的変化に伴う和牛飼養農家戸数の減少が今後も続くとおもわれるので,残存飼養農家の頭数を少しずつ増加させて,いわばなしくずし的に問題解決をはかるほかはないだろうとおもわれる.だがそれにもかかわらずその未来像は必ずしも暗くはなく,かなり明るい展望をもちうる.しかしそれらについては本稿ではふれないでおく.次に肥育牛生産であるが,これも支配的には零細経営であり,子牛生産と結んでの固有な価格体系のなかで,零細性相応の経営技術を定着させてきた.だが肥育における生産費,ことに飼料費のなかには,子牛生産と比べて自給部分が小さく,また自給部分にも有市価物が多いので,費用概念が陶治され,いちじるしい赤字経営での存続が困難である.しかも購入濃厚飼料の経済性が高いので,かえってその規模拡大が容易である.ではなぜ現在でも肥育牛経営の多くが零細であり,規模拡大の速度がおくれているのか.その理由の一つは,和牛経営の有畜農業的経済性からの脱皮の時間的なおくれである.つまり和牛が純粋な肉用種(用畜)となってまだ日が浅いからである.さらにまた農家の資本力の弱さや,肥育牛経営をめぐっての価格的条件の不安定性を理由としてあげることができる.素牛価格の変動が大きいし,また肥育牛価格も価格に関連する牛肉の商品性形成条件の変化に伴って不安定である.肥育経営における資本の零細性,あるいは経営のリスクの増大などを原因とする規模拡大の制約要因は,農協資本によるいわゆる預託牛制度によりいちじるしく解消されている.農協預託牛制度は農協にとっても実質的な資金需要をおこし,また購買(飼料)と販売(肥育牛)の両事業の振興ともなる.肥育における大規模経営も出現してなお日が浅いので,技術や経営経済的秩序が未定着ではあるが,しかし今後農協預託制度を軸として発展し,肥育牛生産における構造的零細性を脱皮するにちがいない.またそれが素牛の価格体系の変化を通して,子牛生産の構造的変化に貢献する契機ともなるだろう.
- Published
- 1971
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