症例は51歳女性. 15年来の糖尿病歴があり, 1995年7月, 糖尿病性腎症により血液透析導入. 当初より上腸間膜動脈血栓症に対する空腸切除術後のためと考えられる断続的な下痢症を認め, インスリンによる血糖コントロールは不良であった.1996年8月10日頃から徐々に全身倦怠感が出現. その後, 歩行時のふらつきと軽度の構語障害が出現したため, 頭部CTを施行するも特に病変を認めなかった. 8月20日にはNa 125mEq/lと低Na血症を認めたため, 食塩の摂取を促した. 8月21日に頭部MRIを施行したところ, 橋中央部に低信号域を認めた. 他の臨床所見と併せてcentral pontine myelinolysis (CPM) と診断した. 8月24日入院. 少量のNa補充と止痢剤の強化, および除水と厳密な血糖コントロールにより緩徐なNa補正を行い, 著明な神経学的改善を認めた.低Na血症の主な原因として, 断続的な下痢症によるNaの喪失や食事摂取量低下によるNa不足, および不適切な基準体重設定や高血糖に起因した高浸透圧血症による水過剰などが考えられた. また通常組成 (Na; 140mEq/l) の透析液による予期せぬ急速なNa補正がCPMを発症, あるいは増長した可能性が考えられた. 透析患者では電解質異常が起こりやすく, さらに透析療法自体が急速な電解質補正になりうるため, 臨床的にCPMが疑われた場合は迅速な診断かつ慎重な対処が必要であると考えられた.